日本の労働契約書で確認すべき重要ポイント
本記事は日本の行政機関等の公式情報や一般的な社会ルールをもとに、制度や手続きを整理して提供するものです。個別の手続きや契約に関する判断については、必ず各管轄窓口やサービス提供会社等にてご確認ください。
- 日本の法律(労働基準法)では、会社が労働者を雇う際、必ず給与や労働時間などの重要な条件を書面で交付する義務があります。
- 口約束だけの契約はトラブルの原因になるため、働き始める前に必ず「労働条件通知書」や「労働契約書」を受け取り、内容を確認する必要があります。
- 外国人の場合、与えられた在留資格(ビザ)で許可されている業務内容と、契約書に記載された仕事内容が一致しているかの確認が極めて重要です。
- 「途中で辞めたら罰金を払う」「会社がパスポートや在留カードを保管する」といった契約内容は、日本の法律で明確に禁止されています。
労働契約書と労働条件通知書の違い(制度の基本概要)
日本で働く際、会社から渡される書類には主に「労働条件通知書」と「労働契約書」の2種類があります。
- 労働条件通知書: 日本の労働基準法により、会社が労働者に対して「必ず書面(または希望により電子メール等)で交付しなければならない」と定められている書類です。給料、労働時間、休日、退職に関するルールなど、法律で決められた重要項目が記載されています。会社からの一方的な通知であるため、労働者の署名や押印は不要です。
- 労働契約書: 会社と労働者が、お互いに雇用条件に合意したことを証明する契約書です。同じ書面を2部作成し、会社と労働者の双方が署名・押印をして1部ずつ保管するのが一般的です。
日本の多くの企業では、この2つの書類の役割をまとめた「労働条件通知書 兼 労働契約書」という1つの書類を発行し、効率的に手続きを進める方法がとられています。どのような形式であれ、働き始める前に書面を受け取ることが最も重要です。
雇用形態(正社員・契約社員・アルバイト)によるルールの違い
労働基準法は、日本で働くすべての労働者に適用されます。雇用形態に関わらず、労働条件の明示義務は同じです。
- 正社員(無期雇用労働者): 契約期間の終わりが定められていない働き方です。原則として、定年(通常60歳または65歳)まで働くことが前提となっています。
- 契約社員(有期雇用労働者): 「1年間」や「6ヶ月間」など、働く期間が事前に決められている働き方です。期間が終了した際に、契約を更新するか終了するかを決定します。
- アルバイト・パートタイム: 正社員や契約社員に比べて、1週間の労働時間や1ヶ月の勤務日数が短い働き方です。留学生や家族滞在ビザの外国人が「資格外活動許可」を得て働く場合は、原則としてこの形態になります。
【必須確認項目1】契約期間と更新の条件(試用期間を含む)
契約書を受け取ったら、まず「いつからいつまで働く契約なのか」を確認します。
- 契約期間の有無: 「期間の定めなし(正社員)」か「期間の定めあり(契約社員など)」かを確認します。
- 契約更新の条件: 期間の定めがある場合、その契約が終了した後に「自動的に更新される」のか、「会社の経営状況や本人の能力によって更新を判断する」のか、「一切更新しない」のかが明記されている必要があります。
- 試用期間(トライアル期間): 入社後、最初の3ヶ月〜6ヶ月程度を「試用期間」と定める会社が多いです。これは、本人の能力や適性を会社が判断するための期間です。試用期間中であっても給料は支払われますが、著しく能力が不足していると判断された場合は、本採用されない(解雇される)リスクがあります。試用期間中の給与が通常より低い場合は、その金額も確認が必要です。
【必須確認項目2】働く場所と仕事の内容(ビザとの関係)
外国人が日本で就労する上で、最も注意すべき項目です。
- 就業場所: 実際に働くオフィスや工場、店舗の住所です。「将来的に転勤の可能性があるか」も記載されています。
- 従事する業務の内容: どのような仕事を担当するかが記載されています。
- ビザ(在留資格)との整合性: 日本で働く外国人は、出入国在留管理局から許可されたビザの範囲内でしか働くことができません。例えば「技術・人文知識・国際業務」のビザを持っている人が、工場での単純作業やレストランでの接客・清掃などの業務を行うことは法律で禁止されています。契約書の「業務の内容」が自分のビザの活動範囲外である場合、その契約で働き始めると不法就労となり、ビザの取り消しや強制送還の対象となるため、絶対に契約してはいけません。
【必須確認項目3】労働時間、休憩、休日のルール
- 労働時間: 日本の法律では、労働時間は原則として「1日8時間まで、1週間で40時間まで」と定められています(法定労働時間)。これを超える労働は「残業(時間外労働)」となります。始業時刻(仕事開始)と終業時刻(仕事終了)を確認します。
- 休憩時間: 法律により、1日の労働時間が6時間を超える場合は「少なくとも45分」、8時間を超える場合は「少なくとも1時間(60分)」の休憩を仕事の途中に与える必要があります。
- 休日: 法律では「少なくとも毎週1日の休日」、または「4週間を通じて4日以上の休日」を与える必要があります。完全週休2日制(毎週2日休める)なのか、週休2日制(月に1回以上、2日休める週がある)なのか、言葉の違いに注意が必要です。
【必須確認項目4】給与の仕組み(基本給、残業代、控除されるもの)
給与の項目はトラブルになりやすいため、詳細な確認が必要です。
- 基本給: 毎月確実に支払われるベースとなる給与です。
- 諸手当: 通勤手当(交通費)、住宅手当、家族手当などが支払われるか確認します。特に「交通費」は、日本の会社では支給されるのが一般的ですが、法律上の支払い義務はないため、支給上限額などが定められている場合があります。
- 割増賃金(残業代): 法定労働時間を超えて働いた場合、深夜(22時〜翌5時)に働いた場合、法定休日に働いた場合は、通常より25%〜35%高い賃金が支払われる必要があります。
- 控除されるもの(天引き): 契約書に書かれている金額(総支給額・額面)が、そのまま銀行に振り込まれるわけではありません。そこから、所得税、住民税、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料が引かれた金額(手取り額)が実際に受け取れるお金です。目安として、総支給額の約80%前後が手取り額になります。
【必須確認項目5】退職や解雇に関するルール
会社を辞める時のルールも、入社する前に確認する項目です。
- 退職の手続き(自分が辞めたい場合): 「退職する日の〇日前までに会社に申し出ること」というルールが記載されています。民法では2週間前までに申し出れば辞めることができますが、会社の就業規則で「1ヶ月前まで」と定められていることが多いため、それに従うのが一般的なマナーです。
- 解雇の条件(会社から辞めさせられる場合): 日本の法律では、会社が労働者を解雇する条件は非常に厳しく制限されています。「正当な理由」がない限り、簡単に解雇することはできません。解雇する場合は、少なくとも30日前に予告するか、30日分の給料(解雇予告手当)を支払う義務があります。
外国人が誤解しやすい「みなし残業(固定残業代)」の仕組み
日本の求人や契約書でよく見られる「みなし残業制度(固定残業代)」は、外国人が特に誤解しやすいシステムです。
- 仕組み: 基本給の中に、あらかじめ「〇時間分の残業代」が含まれている制度です。(例:「基本給25万円(月30時間分の固定残業代5万円を含む)」)
- 注意点: これは「毎月30時間は必ず残業しなければならない」という意味ではありません。残業が0時間でも、基本給25万円は満額支払われます。また、実際の残業時間が30時間を超えた場合は、会社は超過した分の残業代を追加で支払う法的義務があります。「固定残業代が含まれているから、どれだけ残業しても給料は変わらない」と説明する悪質な会社があるため、注意が必要です。
日本の法律で「禁止」されている違法な契約内容
以下のような内容が契約書に書かれていたり、口頭で説明されたりした場合、それは日本の法律(労働基準法など)に違反する違法な契約です。
- 違約金や損害賠償の予定(禁止): 「契約期間の途中で辞めたら罰金50万円を支払う」「遅刻したら1回につき1万円の罰金をとる」といったように、あらかじめ罰金や違約金を約束させる契約は違法です。
- 強制貯金(禁止): 「逃げないように、毎月の給料から3万円を会社が預かって貯金する」という行為は違法です。給料は全額、労働者本人に直接支払わなければなりません。
- パスポートや在留カードの預かり(禁止): 会社が労働者のパスポートや在留カードを取り上げて保管する行為は、労働者の自由を奪う行為であり、法律で禁止されています。いかなる理由があっても、会社に渡してはいけません。
契約トラブルが発生した場合の相談窓口
契約内容と実際の労働環境が違う、給料が支払われない、不当に解雇されたなどのトラブルが発生した場合は、一人で悩まずに公的機関に相談することが解決の第一歩です。
- 労働基準監督署(ろうどうきじゅんかんとくしょ): 日本全国に設置されている、労働基準法を守らせるための国の機関です。会社が法律に違反している証拠(労働契約書、タイムカードのコピー、給与明細など)を持って相談に行くと、会社に対して指導や調査を行ってくれる場合があります。外国語での相談窓口を設けている地域もあります。
- 総合労働相談コーナー: 各都道府県の労働局や労働基準監督署内に設置されており、あらゆる労働問題に関する相談を無料で受け付けています。
よくある質問(FAQ)
一度サインをしてしまうと、「内容に同意した」とみなされるため、後から無効にするのは非常に困難です。内容が理解できない場合は絶対にサインせず、「母国語に翻訳されたものをもらう」か「信頼できる人に翻訳・説明してもらう」ための時間を会社に要求してください。
速やかに会社の人事担当者や責任者に、契約内容との違いを伝えて改善を求めてください。特に外国人の場合、実際の仕事がビザで許可された活動範囲を超えていると、不法就労として自分が処罰される危険があります。改善されない場合は、労働基準監督署への相談、または退職・転職を検討する必要があります。
はい、必ず請求してください。労働条件を記載した書面を交付することは会社の「義務」です。書面を出さない会社は、後から給料を減らしたり、残業代を払わなかったりするトラブルを起こすリスクが極めて高い悪質な企業(ブラック企業)の可能性があります。
情報源
- 厚生労働省「労働基準法の基礎知識」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudoukijun01.html)
- 厚生労働省「外国人労働者向け相談ダイヤル・相談窓口」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gaikokujin/index.html)
- 出入国在留管理庁「外国人の雇用に関するルール」(https://www.moj.go.jp/isa/applications/guide/nyuukokukanri07_00122.html)
- 各都道府県の労働局・労働基準監督署
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